【計画通りじゃなくても、面白い人生を送りたいのなら起業した方がいい】さくらインターネット株式会社代表取締役社長田中邦裕さんインタビュー

  • 2022.10.19

高専生だった18歳のとき、東京のインターネット体験コーナーに置いてあるコンピューターから舞鶴高専にある自分が立ち上げたWebサーバーにアクセスすることができたことに強い感動を受け、その体験から起業にいたったさくらインターネット株式会社代表取締役社長田中邦裕さん。
学生時代に起業してから26年。「手段としての起業だった」と語る田中さんに、経営者としてのこれまでの経験や、学生起業家だからこそ若い世代に伝えたいことなどを伺いました。

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さくらインターネット株式会社代表取締役社長

田中邦裕(たなかくにひろ)

1978年生まれ、大阪府出身。国立舞鶴高等専門学校在学中の1996年にさくらインターネットを創業し、レンタルサーバー事業を立ち上げる。卒業後の1999年にさくらインターネット株式会社を設立し、代表取締役に就任。2005年東証マザーズ上場し、現在はプライム市場上場。現在はクラウド事業を中心に展開している。

東京のインターネット体験コーナーで受けた人生で1番の感動

ー起業を志したきっかけを教えてください

 そもそも、最初は起業することは考えていませんでした。僕は”高専”と呼ばれる5年間通う技術系の学校に通っていて、3年生のときに「インターネットすげえ!」となって自分でサーバーを立ち上げてホームページを作りました。学内の友達のホームページを作ったり、友達のホームページを自分のサーバーに置いてあげるようなこともしていました。そんななか、学校のインターネットがグローバルに繋がるようになり、急に学外や国外からアクセスされるようになったんです。18歳のとき、東京のインターネット体験コーナーに置いてあるコンピューターから、舞鶴高専にある自分が立ち上げたWebサーバーにアクセスすることができたことに強烈に感動しました。これはもう通信とかコミュニケーションがガラッと変わるなと感じました。人生においてこれを超える感動はないと思いますね。

 しかしこのサーバーは勝手に立ち上げたものだったので、学校からクレームがはいってしまったんです。撤去しないといけない状況になったものの、「お金を払ってでも使わせて欲しい」というユーザーが出てきて、学外にサーバーを置かせてもらうことになりました。それまでは学校内に勝手に置いていたので無料でしたが、ちゃんと地元のプロバイダに置かせてもらうようになり、サーバー代などお金がかかるようになりました。このときは登記せずに個人事業主でやっていましたが、この出来事が起業のきっかけです。

ーなりゆきで起業したという感じですかね。(近藤)

 なりゆきですね。起業って目的として行う人と手段として行う人がいると思うのですが、私の場合は手段としての起業でしたね。

―起業して今までで1番嬉しかった出来事、大変だった出来事はなんですか

 嬉しいことはたくさんありますが、上場した時の鐘をみんなで鳴らしたことは印象に残っています。鐘は5回鳴らすことができるのですが、そのときにいた20〜30人を何人かずつに分けてみんなで鳴らしました。

ーめちゃくちゃ素敵ですね!(近藤)

 自分1人でやっているわけではなくて、みんなでやっているものなので、鐘もみんなで鳴らしたかったんです。上場って憧れたり目指したりするものでもあるけれど、上場したことがすごいというよりも、みんなでこの通過点を祝おうという感じでしたね。

 サーバー事業はどんどん新しいものが出てきて、ライバルも多いので戦略や戦術をたくさん変えてやってきました。大変だった思い出だと、ネットバブルが弾けて各所にお金が払えない事態になったことがあります。給与すら払えない状況でした。とにかく申し訳なくて、なんとかしようと思って開発した専用サーバーというサービスがぐっと伸びてなんとか事なきを得ました。

―田中さんが考える、起業家にとって「重要なこと」や「起業家の心得」とはなんですか

 人生において、コピーされないものの価値というのはすごく重要だと思っています。人脈は基本的にコピーされるものではないからそこに含まれると思っていて、そういう意味ではとても重要なことだと思います。あとは自分の熱量。これもコピーされないものですよね。そう考えると若いうちから始めるからこそ育成できるのって人脈なので、起業するのであれば人脈は大切にした方が良いと思います。

広い世界から俯瞰して見ることで気づきを得ることができる

ーGSEAのテーマが「誰よりも世界で勝負する経営者になる」なのですが、若いうちから世界をみることの大切さはなんですか

 僕は30代になってから海外に行くようになったのですが、10代とか20代のもっと若いうちに海外にたくさん行けばよかったと思います。やっぱり、大きな世界から中を俯瞰して見ることは大事なので。僕はネットワークを通して世界を広げることはできるけど、もっと広い世界を見ていくべきだと思っています。シリコンバレーなどに行くと規模感の違いを実感します。世界を見ると改めて、精緻に作り込んでいくことと広げていくことのバランスを取ることは重要だということを感じさせられます。

ーどれくらいの視野から自分や事業を見るかというのを若いうちに経験した方が良いということですね!(近藤)

 そうですね。そうすることで人生に深みが出ると思います。

リスクは少ないから、面白い人生を送りたいなら起業するべき

ー学生起業家のメリット、デメリットはなんだと思いますか

 若いときの方がやっぱりちやほやされますね(笑)。自分の芯をしっかりと持っていれば埋もれにくいし、リスクも少ないと思います。養う人がいなければ、5〜6万円あれば暮らしていくことはできるじゃないですか。だから、そういったお金の心配も少ないことは良い点ですね。失敗した時のリスクが少ないからこそ、どんどん挑戦できるのはメリットだと思います。

 デメリットは、世間を知らなかったり人脈があまりないこと。今だったら、「この経営者に相談したい!」と思ったら誰かしらのツテで相談することができたりしますが、学生のときはそうもいかないのでそこは大変かもしれません。

―ここまで色々お聞きしましたが、ズバリ学生から起業するべきだと思いますか

 就労経験に関わらず、すぐに起業していいと思います。お金がなくても起業はできるからどんどん立ち上げていった方がいいと思うし、就職と起業は別に対局にあるわけではないから、起業した後にどこかに就職するのもいいですよね。起業してその会社に勤めるのもいいし、「起業してこういう経験をしています」というのを就職試験で話すネタにするのも別にいいんじゃないかと思います。

ーたしかに、起業と就職は対局に考えられがちですね(近藤)

 自分がどういう人間かは考えた方がいいですけど、大企業で安定的に暮らしたいと思う人以外は起業した方がいいと思いますね。計画通りに人生を送りたいのか、計画通りじゃなくても面白い人生を送りたいと思っているのかを考えたときに、計画通りじゃなくても面白い人生を送りたい人であれば起業した方がいいのではないかと思います。誰にでも起業を薦めるというわけではなくて、そういうタイプならば起業の道もあるというだけの話です。